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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)128号 判決

原告 株式会社 東洋シート

右代表者代表取締役 山口清蔵

右訴訟代理人弁護士 成富安信

同 青木俊文

同 田中等

同 中山慈夫

同 中町誠

被告 中央労働委員会

右代表者会長 平田冨太郎

右指定代理人 駒田駿太郎

〈ほか三名〉

被告補助参加人 日本労働組合総評議会全国金属労働組合

右代表者中央執行委員長 橋村良夫

右訴訟代理人弁護士 嶋田喜久雄

同 筒井信隆

同 上田和孝

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が中労委昭和五四年(不再)第七二号事件について昭和五七年七月二一日付でした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告および被告補助参加人

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告補助参加人(以下、「補助参加人」という。)は、昭和五四年五月二二日東京都地方労働委員会に対し、原告を被申立人として団体交渉拒否に関する不当労働行為救済の申立てをした(都労委昭和五四年(不)第五九号)ところ、同委員会は、昭和五四年一一月六日付で別紙(一)のとおり救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。

原告は、初審命令を不服として被告に対し同月二八日再審査申立てをしたが(同委員会昭和五四年(不再)第七二号)、被告は、昭和五七年七月二一日付で別紙(二)のとおり再審査申立てを棄却し、初審命令を維持する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令は同年八月二七日原告に交付された。

2  しかしながら、本件命令は、以下に述べるとおり、事実認定において一方的であるばかりでなく、判断において誤っており、違法である。

(一) 原告の従業員で組織する企業内労働組合であった東洋シート労働組合は、昭和三八年一一月ころ補助参加人に加入し、名称を日本労働組合総評議会全国金属労働組合東洋シート支部(以下「全金東洋シート支部」という。)と変更した。右加入は、東洋シート労働組合の組合員が個人として補助参加人に加入したのではなく、東洋シート労働組合が団体として補助参加人に加入したものであった。

(二) 全金東洋シート支部には広島分会と伊丹分会が存在したが、広島分会は昭和五四年四月二〇日に、伊丹分会は同月二一日にそれぞれ開催された臨時大会において補助参加人から脱退することを決議し、全金東洋シート支部は、同月二三日、補助参加人の兵庫地方本部(以下「兵庫地本」という。)に右脱退の旨を通知した。

(三) 右の脱退決議により、決議の当時全金東洋シート支部に所属していた組合員は、すべて補助参加人から脱退することとなるのであって、右決議に反対した組合員には脱退の効力が及ばないということはない。

従って、原告会社の従業員には補助参加人の組合員は全く存在しなくなったのであるから、原告は補助参加人と団体交渉をすべき義務はなく、補助参加人から申し入れられた初審命令主文記載の団体交渉(以下「本件団交」という。)を拒否する正当な理由がある。

(四) しかるに、被告は本件命令において、「会社に全金支部に残留する一一名の組合員によって組織する全金の支部が存在することが明らか」であると認定し、本件団交拒否を不当労働行為とした初審命令は相当である旨判断している。本件団交申入当時全金の支部あるいは全金の組合員が会社に存在したか否かの認定は、補助参加人がなお存在していると主張する全金の支部と全金東洋シート支部との同一性の有無、新たな全金の支部の結成の有無を判断して初めて判明することであるにもかかわらず、被告は、本件命令において、これらの争点の判断を避けて、結論のみを判断している。本件命令はこの点においてその事実認定および判断の誤りがある。

よって、原告は、本件命令の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

1  請求原因1の事実は認める。ただし、被告が原告に本件命令を交付したのは昭和五七年八月二六日である。同2の主張は争う。

2  本件命令の理由は、別紙(二)の命令書理由欄記載のとおりであり、その事実認定及び判断に誤りはない。

三  補助参加人の主張

1  補助参加人は単一組合であって連合団体ではない。

2  原告の従業員である補助参加人の組合員が補助参加人から脱退するという事態が生じたため、補助参加人は、これに原告が関係しているとすれば、これを中止させるべく、「団結権侵害中止について、右に関連する事項」について本件団交を求めたものである。全金東洋シート支部が同一性をもって継続して存在しているのか否かは本件では全く問題にならない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は、本件命令が何日に交付されたかの点を除いては、当事者間に争いがない。

二  当事者

1  原告が、広島県安芸郡海田町に本社を置き(ただし登記簿上の本店所在地は大阪市である。)、右海田町および兵庫県伊丹市に工場を有し、自動車部品の製造を営む株式会社であり、その従業員数が約四〇〇名であること。

2  補助参加人が、全国の金属機械産業の労働者により組織するいわゆる単一組織の労働組合で、その組合員数は約二〇万名であること、補助参加人は、中央本部、地方本部及び支部の組織構成を持つこと、地方本部は原則として都道府県ごとにおかれ、中央本部機関の諸決議及び指示に従い所属支部及び組合員の指導統制を行うこと、支部は原則として工場、事業所ごとに組織され、中央本部及び地方本部の各機関の諸決議及び指示に従って所属組合員の指導と統制を行うこと。

以上の事実については《証拠省略》によって認められ、この認定に反する証拠はない。

三  本件の経緯

《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができ、これらの認定に反する証拠は存しない。

1  原告会社には、従前、その従業員により組織された「東洋シート労働組合」なる名称の労働組合が存したが、同組合は昭和三七、八年ころ組合大会での決議により補助参加人に加入し、名称を「総評全国金属労働組合東洋シート支部」と変更し(これを前記のように「全金東洋シート支部」という。)、補助参加人の兵庫地本に所属した。このことにより、従前の東洋シート労働組合に属していた組合員は補助参加人の組合員となった(原告は、東洋シート労働組合は団体として補助参加人に加入したと主張するけれども、前記認定のように、補助参加人はいわゆる単一組織の労働組合であると認めるのが相当であるから、特段の事情のない限り、補助参加人に加入した組合の組合員は同時に補助参加人の組合員となるものと解するのが相当である。)。

2  全金東洋シート支部は、原告の広島工場に勤務する従業員により広島分会を、伊丹工場に勤務する従業員により伊丹分会をそれぞれ組織しており、昭和五四年四月当時の組会員は、広島分会が約三一〇人、伊丹分会が約四〇人であった。同支部の広島分会は、昭和五四年四月二〇日、臨時大会を開催して補助参加人から脱退することを多数決で決議し、翌二一日には伊丹分会も臨時大会を開催して、同様の決議をした。そこで、同支部は同月二三日、兵庫地本に対し、右脱退の旨を通知するとともに、原告に対しても、その旨を通知し、今後は補助参加人とは一切関係がない旨を併せて申し入れた。

3  兵庫地本は、右の通知を受けた同月二三日、早速原告に対して右脱退問題に関する団体交渉の申入れをしたところ、原告は、同月二四日付書面をもって、全金東洋シート支部から補助参加人を脱退した旨の通知があり、従って兵庫地本は団体交渉の当事者の資格がないとして、その申入れを拒否した。

4  兵庫地本は、同年五月一日、補助参加人の本部規約に反する行動をとったことを理由に全金東洋シート支部執行委員会の執行委員全員(執行委員はすべて脱退に賛成した。)を六か月間の権利停止処分に付し、同月四日、前記脱退に反対し、また脱退決議の効力を争い、全金に残留することを表明していた一色邦男(以下「一色」という。)を支部執行委員長代行に指名した。そして、一色ら脱退に反対する一一名の者は、同月七日に全金東洋シート支部の臨時大会を開き、一色を執行委員長に選任した他新執行委員を選出した。これに基づき、兵庫地本は、同月七日、原告に対し、今後は右新執行委員らが全金東洋シート支部を代表するものである旨内容証明郵便で通知した。

5  一方、前記のように四月二三日に全金を脱退した旨兵庫地本に通知した全金東洋シート支部は、五月八日及び九日の両日、臨時大会を開き、名称を「東洋シート労働組合」に改めることを決議した。

6  補助参加人は、同月一四日、原告に対し、「(1)貴社の当組合に対する団結権侵害中止について、(2)右に関連する事項」という議題により団体交渉をするよう申入れをした。

これに対し、原告は、同月一九日、「突然貴殿からこのような申入れを受け会社は驚いている。本件については既に兵庫地本から同一内容の申入れがあり、会社は四月二四日付書面をもって既に回答済みである。」と文書で回答し、これを拒否し、その後もその態度を変えていない。

7  そこで、補助参加人は、昭和五四年五月二二日、東京都地方労働委員会に右団体交渉拒否につき救済申立てをした。

8  右申立て後の同年五月三〇日、一色は、全金東洋シート支部執行委員長として、原告に対して、全金東洋シート支部に対する団結権侵害中止について、団体交渉の申入れをしたところ、原告は、同年六月四日、「当社には全金東洋シート支部なる組合は存在しないので、団体交渉に応じる考えはない。なお、新たに第二組合でも結成したというのなら組合結成通知書等の提出を要求する。」旨回答した。

9  原告は、従来全金東洋シート支部組合員につき組合費のチェック・オフを実施していたが、前記のような脱退通告があった後は、東洋シート労働組合のために、組合費のチェック・オフをすることとしたところ、同年五月二三日に東洋シート労働組合から、一色ら一一名が右組合を脱退したものとして取り扱うこととしたとの通知があったので、原告は、一色ら一一名については組合費のチェック・オフを中止した。

10  一色らは、その後も、全金東洋シート支部執行委員長として、ストの通告を行ったり、組合業務のための欠勤を申し出る等東洋シート労働組合とは別個の団体として行動し、そのたびに、原告は、全金東洋シート支部は存在しないとし、もし一色らが第二組合を結成したのなら結成通知書等の提出を要求するとの態度を変えなかった。一方、東洋シート労働組合は、原告に対し、従来の全金東洋シート支部は、全金を脱退して東洋シート労働組合と名称を改めたこと、従って、原告会社には全金東洋シート支部なる組合は存在しないので、原告が全金東洋シート支部と称する者との間に団体交渉等を行うことは、団結権の侵害となるので、そのような行為のないようにとの申入れをした。

四  不当労働行為の成否

1  原告は、補助参加人からの団体交渉の申入れに応じない理由として、全金東洋シート支部の広島分会及び伊丹分会がそれぞれの臨時大会において参加人からの脱退を決議したことにより、右決議当時全金東洋シート支部に所属していた組合員は、右決議に反対した者をも含めてすべて補助参加人から脱退したこととなり、したがって、一色ら一一名がその構成員であると主張する全金東洋シート支部という労働組合は存在しないから、補助参加人は団体交渉の当事者である資格を欠く、と主張する。

2  労働組合法七条二号は、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを、不当労働行為として禁止している。そこで、補助参加人が労働組合であることは、前記認定のとおりであるから、本件においては、補助参加人が原告の雇用する労働者の代表者であるか否か、すなわち、原告の従業員の中に補助参加人に加入する組合員が存在するか否かということが問題となるので、この点について検討する。

原告の従業員で組織され、補助参加人に加入する全金東洋シート支部が、その臨時大会において補助参加人から脱退することを多数決で決議したことは、前記認定のとおりである。そして、右脱退決議に賛成する者ら(当時の全金東洋シート支部の執行委員はすべて含む。)は、その後全金東洋シート支部の名称を東洋シート労働組合と改め、東洋シート労働組合が全金東洋シート支部と同一性を有する組合であると主張し、原告にもその旨を通告していること、一方、右脱退決議に反対する一色らは、全金東洋シート支部は右脱退決議の前後を通じて存続し、同人らは依然として補助参加人に属する全金東洋シート支部の組合員であると主張し、兵庫地本及び補助参加人も一色らの主張を支持し同人らを補助参加人の組合員として取り扱うとともに、原告にその旨を通知していること、一色を執行委員長とし、全金東洋シート支部を名乗る団体は、少なくとも一一人の構成員を有し、一色を執行委員長とするほか執行機関を有しており、東洋シート労働組合とは別個の存在であること、この団体は、原告に対して団体交渉の申入れやストライキの通告等の組合活動を行っていることは、前記認定のとおりである。

このような事実に照らすと、一色を執行委員長とし、全金東洋シート支部を名乗る団体は、それが従前の全金東洋シート支部との同一性を有するか否かはともかくとして、独立の労働組合としての実体を有し、かつ、その構成員が補助参加人に加入していると認めることができるのである。そうであるとすれば、原告の従業員の中に補助参加人に加入する組合員が存在することになるから、補助参加人は、団体交渉の当事者となる資格を有するといわなければならない。

3  原告は、全金東洋シート支部のした前記脱退決議により決議に反対した者も右決議の効力を受けて補助参加人から脱退したこととなり、原告の従業員の中には補助参加人の組合員は存在しなくなったから、補助参加人が原告の従業員で組織する全金東洋シート支部が存在するというのなら、新たな全金の支部の結成の事実が存在しなければならない、と主張する。

補助参加人のような全国的な組織を有する労働組合の支部が、右組合から脱退する決議を多数決によりし、脱退手続を執った場合に、右決議に反対した者も右組合から脱退したこととなるのか否かは、右組合の団体としての性格、加入及び脱退に関する手続の定め、右脱退決議の趣旨等諸般の事情を考慮して決すべき困難な問題であるが、本件の解決のためには、必ずしもこの問題につき結論を出す必要はない。何故なら、補助参加人が原告との団体交渉の当事者としての資格を有するか否かは、前記のように、原告の従業員の中に補助参加人に加入する組合員が存在するか否かによって決定されるからであり、原告の従業員の中に補助参加人に加入する組合員が存在すると認められる以上、その組合員が脱退決議の前後を通じて終始補助参加人の組合員であったのか、それともその組合員が脱退決議の効力を受けて一たん補助参加人から脱退したこととなり、その後再び補助参加人の組合員に復帰したのか、また、右の組合員らが組織する団体が従前の全金東洋シート支部と同一性を有するか否かは問うところではないからである(仮に、原告主張のように脱退決議の効力が一色ら脱退に反対する者に及ぶことがあり得ると解するとしても、前記認定のように、その後同人らにおいて脱退決議の効力を争い、依然として補助参加人の組合員であると主張して行動し、補助参加人においてもこれを認めているという事実が存在することからすれば、少なくとも右の事実が存在する時点以降においては、一色らは補助参加人の組合員であると認めるに何らの支障はないのであって、このような場合にまで、形式的に新たな加入手続をした旨の通知を一色ら又は補助参加人が原告に行う必要はないものといわなければならない。)。

よって、原告の主張は失当である。

4  以上のように、原告の雇用する労働者の中には補助参加人の組合員が存在していることになるので、補助参加人には本件団交の当事者資格があるものというべく、原告による本件団交の拒否はその正当の理由を欠き不当労働行為に該当するものといわなければならない。

五  よって、本件命令に原告主張の違法はなく、本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)の負担につき民訴法八九条及び九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今井功 裁判官 杉本正樹 原啓一郎)

〈以下省略〉

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